2013/06/29(土)10:30~12:00
(株)総合コンサルティングオアシス 代表取締役
早稲田大学参与
大江建

研究開発マネジメントのコンサルティング、グローバル人材育成コンサルティングをされている大江建氏による「仮説のマネジメント」の講演に、京都を中心とする大企業・中小企業・一般職など様々な顔ぶれ30数名が集まった。

大江氏は、米国メリーランド大学理学博士(Ph.D)を取得後、コロンビア大学経営学修士(MBA)を取得した。実験物理学の知見を経営学に活かし、実験経営学を提唱した。 実験経営学の理論と実践をまとめた著書「なぜ新規事業は成功しないかー第3版」がある。

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(講義の様子)

なぜ仮説のマネジメントが必要なのか

ビジネスを取り巻く環境は、ますます不確実性が高まっている。
高度成長期以降に、世界でも突出して高齢化が進み、人口動態が大きく逆ピラミッド型になってきた日本は、まだ見ぬビジネス環境へと突入していると言える。

このような状況で、大企業から中小企業においても、新規事業の創出に大きな期待がかかる一方で、その不確実性ゆえに、継続した取り組みを行うことが難しい状態にある。

新規事業創出と、その実効性を高めるために中核をなすコンセプトが、大江氏の提唱する「仮説のマネジメント」だ。仮説のマネジメントは、すでに80年代から提唱されており時代を先読みしているとも言える大江氏の示唆に富んだ実践と理論をご紹介したい。

「仮説は立てることよりも、検証することが重要です」by 大江建

「仮説は立てることよりも、検証することが重要です」by 大江建

A:不確実性の高いビジネス環境

講座は、現代の不確実性の高いビジネス環境について共有するところから始まった。
なぜ、不確実性が高いのか?
不確実性の高さを裏付ける2つの要因について解説している。

A-1:競争優位性の短期化

1つ目は、競争優位性の短期化である。
商品の寿命が短くなっている状況と、商品の持っている優位性が簡単に真似されるようになり、次々に新たな優位性を創出しなければならない。そうしなければ、簡単に飽きられてしまうか、魅力がすぐに色あせて見えるのだという。大江氏によればデジタルカメラを例に競争優位性の期間がどんどん短くなるとした。
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筆者注釈

上記図、実線で描かれているものが初期の光学式カメラとすると、1959年に発売されたニコンFという機種は、当時絶大な人気を誇り、同機種が1970年代まで製造販売されたロングセラーとなっている。その後、1972年に世界最小軽量の35mm一眼レフカメラとなるオリンパスOM-1が脚光を浴びたが、シャッターを高速化した機種や電子制御フォーカス、自動露出など、各社競争が激化した。結果、1つの機種または1つの特性における競争優位性の期間はどんどん短くなっていった。デジタルカメラ市場においてもシーズン毎に新機種が発売される状況から見ても、競争優位性の短期化が顕著である。優位性の短期化は、市場予測を困難なものにしている。

A-2:仮説の精度

2つ目は、不確実性における仮説の精度である。

インターネットでの情報共有のスピードが上がり、今までにはない早さで技術や知識が広まることで、国や地域の情報格差が小さくなった。以前なら競争相手と見なされなかったが、業界によっては大企業の新規事業vsスタートアップベンチャーという構図が成り立つのである。現代は超競争社会に入っている。

不確実性の高い新事業においては、知らないことが多いことを上げた。
新事業の「仮説の精度」実験例として、井の頭公園でのギフト販売を紹介した。
10年以上のビジネス経験者と学生が「井の頭公園で何が売れるのか?」を実践した。
その結果、ビジネス経験者の仮説の精度のベストなものでは30%。学生の場合は20%という結果が出た。

さらに大企業の新規事業の調査結果を提示された。
これによると、競争商品の価格、市場規模などの外部仮説の精度は30%という。
そして、十分に予測できそうな開発コストや開発日程などの内部仮説においても70%という数値だ。

新規事業においては、仮説の精度が低いことを前提として、なるべく数値化しコントロール可能な仮説を作ることの重要性を指摘された。

B:新規事業の推進 仮説のマネジメント

仮説のマネジメントとは、最初の仮説を検証しながら、事業の予測確度を上げていくことである。

大江氏曰く、あらゆるビジネスプランは仮説で作られているので、最初に作るビジネスモデルやビジネスプランの良し悪しは余り関係ないという。不確実性の高いビジネス環境では、「仮説のマネジメント」を用いて、事業を推進していく必要があるという。

事業推進の仮説マネジメントを図で表すと下記のように、仮説・検証・検討を繰り返している。
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直感的ビジネスモデルを作った後、必ず検証し、第2次モデルへと成長させる。サンプル開発後も検証を重ねて、第3次モデルを作成する。仮説検証を繰り返した後に、ビジネスプランを作成することが推奨された。

続けて、仮説を策定する・仮説を検証する・仮説を検討するという3つのフェーズについて掘り下げていった。

B-1:仮説を策定する

仮説を策定する場合、次のような提案があった。
・偏りなく事業全体にわたる仮説を作る。
・コントロールしにくい仮説とコントロールできる仮説を分ける。
・事業を推進できなくなるような決定的な仮説を失敗の条件とし、書き出す。

ビジネスモデルの策定とは、ビジネスモデルキャンバスの9つの要素について仮説を策定すること。キャンバスを使うと、偏りがなく事業全体にわたる仮説を作ることができる。

また、新規事業の評価(BMO法)をするために、仮説を明確化する必要がある。定性的な仮説も可能な限り数値化すると検証可能となる。可能な限り固有名詞などを使い、ターゲットを定めた仮説を作るなど、具体的なTipsが紹介された。
(BMO法:http://oasis3.com/content/15.html

仮説の書き方の具体的な指針としては、
・事業年度が本格化する年度を書く。
・本格化の目標年度の市場規模、市場占有率、売上高、利益額、利益率を書く。
・事業ステージが進むにつれて仮説を詳細化する必要がある。

B-2:仮説を検証する

仮説の検証方法は、顧客(顧客候補)との対話であるという。
デモなどを見せながら話をすることで、より深い本音を聞き出すことができる。アンケートなどの2次データ、3次データからでは深い検証ができないという。

一番先に検証するべきことは、ビジネスモデルキャンバスにおける顧客セグメントと顧客価値だ。可能性のある顧客に質問すべきことを次のようになる。
・提案している商品やサービスが解決する問題に顧客が気がついているか
・提案している商品やサービスが解決する問題に解決策があれば購入してくれるか
・自社から購入してくれるか
・商品やサービスを本当に提供できるか

仮説・検証によりビジネスモデルが変化した例として、動体視力訓練ソフトが示された。
動体視力を高めるこのソフトは、当初、スポーツ業界の個人技能を伸ばすことを価値として、スポーツマンを中心に販売を開始されたが、鳴かず飛ばずであったという。その後、顧客セグメントを「高齢者」に修正することで、老人の怪我の防止などが価値提案となった。現在、老人ホームや高齢者用の自動車学校などで普及している。
また当初の仮説では、チャネルは口コミを想定していたが、競技者は口コミをしなかったことが広がらなかった原因と思われる。

B-3:仮説を検討する

仮説をどうやって管理するのか。
ビジネスモデルキャンバスやBMO評価を行う際に重要な仮説を「失敗の条件」として抽出しておくこと、仮説検証のマイルストンプランを作成し、いつどこで、仮説を検証するかを決めておくことが上げられた。

下図に当てはめて、 仮説の検討し、次の指針を作る。

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(c) 大江建

仮説を策定するための色々なツール
ビジネスモデルキャンバスと、様々な仮説策定のツールの関係性は下記のようになるという。ビジネスモデルキャンバスのどのブロックに関連し、対応しているのか指標となるだろう。

www.businessmodelgeneration.com

www.businessmodelgeneration.com

筆者注釈

例えば、5W1Hというツールを使うと価値提案のブロックを深めることができる。Attribute Mapというツールを使うと、価値提案と顧客セグメントを組み合わせて考え、精緻化して、より詳細な仮説を策定できる。尚、京都D-Schoolでは、上記「Attribute Map(アトリビュートマップ)」を岡田康子氏に講義いただき、通年のメインツールの1つとして活用する。

C:ビジネスプランコンテストからビジネスモデルコンテストへ

最後に、今後の新規事業を取り巻く業界について、大江氏の仮説を提示された。

それがビジネスモデルコンテストだという。
ビジネスモデルコンテストは、形式化しているBusiness Plan Contestに取って代わるものとして、スタンフォード大学のSteve Blank教授、Brigham & Young 大学のNathan Furr教授などによって提案されたもので、第3回国際大会は、2013年5月3,4日にハーバード大学で開催された。

ビジネスモデルコンテストが期待されているのは、起業することを狙いとしていることだ。採用基準は「どのくらい企業に向けて進捗しているか」とするものだ。

このコンテストの採点基準は、仮説のマネジメントの実践を意味している。
主な採点基準は、次のようになっている。
・仮説リストの策定
・失敗の条件の明確化
・仮説の検証の実行
・仮説の検証方法の有効性

ビジネスモデルコンテストに参加することで、参加者は、仮説のマネジメントを行い、有効なビジネスモデルを作り上げる力を試すことができる。
ハーバード大学のビジネスプランコンテストの優勝者がビジネスモデルコンテストでは8位以内入らなかったという。彼らの仮説リストが不十分で、顧客候補リストが作成されていなかったからだ。ビジネスプランを作成できることと、起業することは全く違うことを表していると言える。

日本での開催に向けて

大江氏を中心に、今年秋頃から、日本でのビジネスモデルコンテストの開催が計画されている。

現在、日本では、不確実なビジネス環境で失業率ばかりが取り上げられているが、現代に生きる人間は「どんな未来を創造するのか?」といったことにフォーカスすべきである。

ビジネスモデルコンテストが、日本での起業率を上げる起爆剤となることに大いに期待される。

以上、レポートの締めくくりにもう一度、大江氏の言葉を繰り返したい。

「仮説は立てることよりも、検証することが重要です」
by 大江建

参考書籍:
・「なぜ新規事業は成功しないのか 第3版」~仮説のマネジメントの理論と実践
大江 建2008年 日本経済新聞社
・「リーンスタートアップ」
エリック・リース 著 井口耕二訳 2013年 日経BP社
・「ビジネスモデルジェネレーション」
アレックス・オスターワルダー等、小山龍介訳 2012年 翔泳社 

(敬称略)

筆者感想

質疑応答で活発な意見が出されたことが印象的でした。
仮説のマネジメントでは「数値化できるもの」と「数値化できないもの」を分けて、仮説を作る。それによって検証が可能となります。不確実性に対応するためには、数値化できるものを管理することが重要です。
その上で「数値化できない仮説は、どう扱えばいいのか?」という質問がありました。数値化出来ないものは、「売上以外の資産」という視点であれば、検証可能だと提案されていました。
今後の新事業には、数値化しづらいブランドや信頼性、魅力度、チームワークといった視点を、企業や個人が持つことが不可欠ではないでしょうか。
ビジネス全体を俯瞰できるビジネスモデルキャンバス。ビジネスモデルを管理するための仮説のマネジメント。そして検証ツール・アトリビュート分析をマスターすることで、数値化できない価値を積極的にビジネスに活かす方法と可能性を感じることができるのではないでしょうか。今後「京都D-School」から創造される今後の動きに注目していきたいと思います。