2013/06/29(土)13:00~17:50
商品・事業の差別化 アトリビュート分析
株式会社 総合コンサルティングオアシス 代表取締役
岡田康子

顧客セグメントと顧客ニーズを分析し、競合との比較から商品・事業を差別化するツール「アトリビュート分析」の手法を実践するため、京都を中心とする大企業・中小企業・一般職など様々な顔ぶれ30数名が集まった。講義とワークショップの内容をレポートする。

岡田氏は㈱総合コンサルティングオアシスの創業者でもあり、そこで新事業や研究テーマの事業化のコンサルティングを行う一方、「働きやすい職場作り」を支援する会社も立ち上げている。「企業が如何に儲けるか」と言う立場と「社員の利益」を求める立場と一見、相反するように見える2つのコンサルティング活動だが、岡田氏は同じであるという。
人は自分自身の能力を活かすことに喜びを感じるとき、企業もまた人的資源を最大にすることができる。そのキーワードは自立である。研究テーマが育ち、事業として本業から自立していくこと、個人が組織に依存せずに自立した個人として対等な立場を築くための支援をしていくこと、その関わりは岡田氏にとっては同じアプローチなのだそうだ。
実践に基づく経験知で、鋭く時代を読み取る岡田氏の講義は、「教えるのではなく、如何に自立していただくか?」という主旨で、ワークショップの時間がふんだんに盛り込まれた。

岡田康子氏 撮影:筆者

岡田康子氏 撮影:筆者


日本人は仮説を立てない?

日本人は欧米諸外国に比べて不確実なことを嫌うというデータが提示された。さらに遺伝子の特長を諸外国と比較すると、日本人は不安を感じやすいという。仮説とは不確実なものである。不確実なことを嫌い、不安を感じやすい日本人は大胆な仮説を立てない傾向があるという。だからこそ、よほど意識して仮説を立てて動く必要があるという。

岡田氏は仮説のマネジメントを「未だ見ぬ不安のマネジメント」と呼んだ。仮説を立て検証するということは、不安を解消しながら事業を進めていくことだという。加えて、ビジネスの仮説を立てる時は仮説に意志が入っていないといけないという。世の中のトレンドに合わせていたのでは競争には勝てない。「自分が新たな市場を作り上げる」という意思を盛り込んだ仮説を作ることが必要なのだという。

仮説のマネジメントの重要性を再確認したところで、アトリビュート分析で仮説を作る講義に入った。講義全体は、図のような時間軸で進行した。

講座の流れ 画像:筆者作

講座の流れ 画像:筆者作


講義の半分以上がワークショップであり、中盤からのグループワークでは、その場で作ったチームが共同してアトリビュート分析(※詳細は後述)を実践した。

日常に仮説のマネジメントを

仮説のマネジメントは、仮説と検証の繰り返しだ。日常的に仮説検証を癖付けることで、ビジネスにおける洞察力を鍛えることができる。

では、どうやって仮説検証するのか?
その事例として、「仮説の自己紹介」が行われた。

【ワーク1】
2人1組となり、お隣の人がどんな人なのか?なぜここに来たのか?という仮説を立てる。その答え合わせをすることで、検証ができるとした。

【ワーク2】
次に、自分の強みを書き出させた。それをもって、相互にリクルーティング活動を行い、多様性のあるチーム作り・ベンチャー起業のスモールモデルを体験した。

リクルーティングの様子 撮影:筆者

リクルーティングの様子 撮影:筆者


リクルーティングが終了した時点で、岡田氏から参加者に質問がなされた。
「どうやってチームメイトを決めましたか?」
「目の前にたまたまいた人と組んでいませんか?」

岡田氏の指摘通り、参加者の多くがたまたま出会った人とチームを作っていた。
ベンチャー起業や新規事業では、できるだけ多様性のあるチームを作ることが推奨されている。岡田氏からの提言は、どんどん動いてたくさん会うこと。数多くの人に当たる。事業の立ち上げはスピーディに。多様なチームを作るためにも、自分の強みは知っておく必要があるという。

ここまでのまとめとして、グループワークに向けて次のように提言した。
・今日のワークは、正解をお教えすることではありません。
・1つの枠組みを提供します。
・今ここで、出来る最善の方法で情報を集め、整理していく。
・確実なことではなくても、発言するようにする。

アトリビュート分析とは

アトリビュート分析は「商品やサービスの特性を競合他社と比較し、見直す」もので、コロンビア大学ビジネススクール教授リタ・G・マグレイス氏によって提唱された手法だ。商品・サービスの特性には肯定的特性・否定的特性・中間的特性があるとし、下記図のアトリビュート分析マップにポストイットなどを使って自社商品や他社商品が持っている特性を配置し、分析を行う。

出典:アントレプレナーの戦略思考技術/リタ・G・マグレイス、イアン・マクミラン著 社内企業研究会訳 ダイヤモンド社 2002年。翻訳、図:総合コンタルティングオアシス

出典:アントレプレナーの戦略思考技術/リタ・G・マグレイス、イアン・マクミラン著 社内企業研究会訳 ダイヤモンド社 2002年。翻訳、図:総合コンタルティングオアシス

(1) 肯定的特性
購買の決定的要因となる特性は、上段の肯定的特性に配置される。肯定的特性の右側「これに決めた!」に配置された特性は、通常、競合製品も同様の特性を備えるなどの理由から、徐々に左側へ移動し「あって当たり前」になる。汎用品になっていくプロセスだという。
(2) 否定的特性
否定的特性は競合が新製品を出すことで徐々に右側へ移動し「文句を言いたい」「なんだ、これは?」となる。自社商品や他社商品の「文句を言いたい」特性を改善し、決定的要因を備えた新製品を作ることで売れてゆくという。
(3) 中立的特性(中間的特性)
中間的特性は、購買決定にあまり影響を及ぼさない特性となる。中間的特性を極力排除することで、なるべく安く提供するなどの方法が考えられるという。

筆者注釈

特性が移動する例として、「パカパカ携帯」と呼ばれる折りたたみ式の携帯電話を取り上げる。パカパカ携帯が発売された当初は「折りたためる」という特性が「これに決めた!」であったが、メーカー各社が同様の折りたたみ式を採用することで、徐々にあって当たり前となった。その後、厚み、ディスプレイを素早く確認できないといったことが否定的特性となり、薄型化や2軸回転などの新たな特性が追加されてゆくこととなった。

ビジネスモデルとの関連性

アトリビュート分析をビジネスモデルキャンバスに照らし合わせると、商品・サービスが持っている特性(資源)に対して、顧客をセグメンテーションしていくことで価値が生まれてくるとし、下記図を提示した。

出典:www.businessmodelgenelation.com

出典:www.businessmodelgenelation.com

ビジネスモデルを作成する際、アトリビュート分析を導入することで、下記のように活用できるという。
・顧客のニーズを分析し、製品・サービスの特性を創り出す
・他社との製品比較において肯定的要素、否定的要素の管理をする
・ターゲット顧客に対して中間的要素を排除する
・製品のみの差別化が出来ない場合、消費チェーンによって差別化を検討する

アトリビュート分析をビジネスモデルに落とし込む手順として、以下の方法を提示した。
手順1:「ニーズ分析」で、顧客のニーズを抽出し顧客セグメント毎の傾向を分析する。
手順2:「アトリビュート分析」で、商品特性を分析する。または創り出す。

筆者注:なぜ、ニーズ分析とアトリビュート分析を組み合わせるのか?
講座では、高機能なテレビのリモコンを例に上げ、若者にとっては便利かもしれないが、高齢者にとっては複雑すぎて使いづらい。といった指摘がなされた。
このように顧客セグメントによって、何に価値を感じるかは異なる。第一段階でニーズ分析を行い、顧客セグメントを選定する。顧客セグメントをピポッドの軸足にして、商品・サービスの特性を考察することで、アトリビュート分析がワークする。

ニーズ分析

ニーズ分析の手順は、まず複数の顧客セグメントを書き出す。次にその商品群で満たされるニーズや顧客セグメントが期待することを書き出す。最後に顧客セグメントとニーズを組み合わせて、◎◯△×の四段階で評価し、最も有用性の高いセグメントを1つ選定する。主要顧客セグメントの選定は市場規模や成長率なども加味して評価するとした。
具体例として、自動掃除機のルンバ(米国アイロボット社)とロボット家電COCOROBO(SHARP)を取り上げたものが下記となる。

©総合コンサルティングオアシス

©総合コンサルティングオアシス

ニーズ分析では次のような効果を期待できるという。
・商品やサービスの特性(アトリビュート)を抽出する。
・顧客セグメント毎のニーズの傾向を知る。
・複数の顧客セグメントから最も適した顧客セグメントを選定する。

アトリビュート分析

講義では、上記のニーズ分析を基に主要顧客セグメントを「生活に余裕のある退職夫婦世帯」として、アトリビュート分析の例が提示された。

シャープCOCOROBOのアトリビュート分析 出典:『アントレプレナーの戦略思考技術』 リタ・G・マグレイス、イアン・C・ マクミラン著 社内起業研究会訳 ダイヤモンド社 2002年。翻訳、図:総合コンサルティングオアシス

シャープCOCOROBOのアトリビュート分析
出典:『アントレプレナーの戦略思考技術』 リタ・G・マグレイス、イアン・C・ マクミラン著
社内起業研究会訳 ダイヤモンド社 2002年。翻訳、図:総合コンサルティングオアシス

ここまでのまとめとして次のような視点で、アトリビュート分析マップをたくさん書くことで改善点を洗い出すことができるという。
・ターゲットが違うとどうなるのか?
・顧客目線での商品の特性と自社の戦略に矛盾がないか?
・既存商品を分析し、問題点を解決して新商品できるか?
・違う商品、競合他社を分析するとどうなるか?
・商品の特性が顧客価値と調和しているか?
・顧客セグメントと顧客価値は調和しているか?

休憩も全てチームにお任せします。

ニーズ分析、アトリビュート分析の流れを解説後、グループワークのお題が出された。指令は「ヘッドマウントディスプレイの他社戦略を比較分析せよ」である。グループ毎に、インターネット検索などで資料を集め、アトリビュート分析を実践する3時間のワークがスタートした。

アトリビュート分析の記入手順は、下図のようになる。

©総合コンサルティングオアシス

©総合コンサルティングオアシス

以下、今回のワークの手順を書き出したので、参考にしていただきたい。
1. ニーズ分析
 1-1. セグメントを書き出す:どんな顧客がいそうか?
 1-2. ニーズを書き出す:この商品群で満たされるニーズは何か?
 1-3. ニーズの評価:顧客セグメントとニーズをまとめる
 1-4. セグメントの選定:顧客セグメント毎にニーズを評価する
2. アトリビュート分析
 2-1. 主要顧客セグメントに対するアトリビュート分析マップを記入する
 2-2. 競合となる商品のアトリビュート分析マップを記入する

各グループに割り当てられたホワイトボードが次々と埋まっていき、活発な意見が飛び交っていた。

グループでニーズ分析の様子 撮影:筆者

グループでニーズ分析の様子 撮影:筆者

ワーク終了後、各グループによる発表を行い、活発な質疑応答・議論がなされた。同席した大江建氏からも「現状に不満を抱いている顧客が今現在、代用している商品やサービスは何か?」といった鋭い質問がなされた。

参加者の感想では「普段、マーケティングや企画に携わることがないが、顧客が価値を感じる特性とは?といった視点で商品・サービスを見直すきっかけが得られた。」という意見が出ていた。

差別化プロセス

発表後、多様なアトリビュート分析による差別化プロセスについて提言された。
主要顧客に対する新商品を創出するには、複数のアトリビュート分析マップを作成し、分析するという。

©総合コンサルティングオアシス

©総合コンサルティングオアシス

また、商品の特性だけで十分な差別化ができない場合は、消費チェーンを見直す。顧客との関係やチャネルといった顧客とのコンタクトポイントを変えることで、顧客にどうやって感動を与えることができるかを考える必要があるという。

あくまでも道具です。
講義の最後に岡田氏から次のような提言がなされた。
「日頃から、仮説を作ったら検証することで直感力が磨かれます。アトリビュート分析は、だいたい最初はうまく書けていないことが普通です。あくまでも道具なので、自分が漠然と思っていること、他人がどう考えているかということを、この枠組を使ってはっきりとさせていくことが大切です。道具なのでうまく使いこなしてほしいと思います。」

以上の講義後も帰宅を惜しむように参加者同士の議論が続いていたことが印象的であった。

筆者感想

新規事業を創出する上では、顧客が先か?商品が先か?といった議論がつきまとうが、岡田氏より投げかけられたのは「仮説を立てる時は、仮説に意志が入っていないといけない」という言葉であった。筆者はこの言葉を「自分が全力で打ち込めることを見つけ出し、ミッションやビジョンをビジネスに投影させる」ことと解釈した。ツールの使いこなしダイナミックで力強い仮説を作るために必要なことは知識だけではなく、誰かのために、何かのためにといった意志であり情熱ではないだろうか。(撮影、執筆:亀田真司)