ビジネス総合力養成講座「京都D-School」
2013/09/21(日)13:00~14:30

ムラタチアキ氏/株式会社ハーズ実験研究所 代表取締役
1959年鳥取県境港市生まれ。1982年大阪市立大学工学部応用物理学科卒業後、三洋電機株式会社デザインセンター入社。1986年ハーズ実験デザイン研究所を設立、プロダクトを中心に、グラフィック、C.I、インターフェースデザイン等広範囲なデザイン活動を行う。「行為のデザイン」というユーザー心理行動分析法による商品デザイン開発の指導、実践、「デザイン経営ストラテジー」、「デザイン資産価値概念」など、デザインの果たす役割を大きく捉えたシステムを実践している。また、元エンジニアであることから、大学や企業の先端技術のデザイン可視化をサポート、プロデュースする活動も多い。

デザイン地域振興施策では、各企業のコア・コンピタンスを活かしながら、地域ベクトルを揃える地域型企業コンソーシアムのプロデュース、デザインを行うなど、戦略としてデザインを活用したプロデュース業務にも数多く携わっている。

2005年には、MicrosoftのXbox 360のコンソールデザインを手がけ、同年4月のミラノサローネで発表したコンソーシアム・デザイン・ブランドMETAPHYSは、企業分野を超えてデザイン、思想、ブランド共有を図る新しいビジネスモデルとして、メディアで数多く取り上げられている。2013年9月21日、公益財団法人 京都高度技術研究所ASTEMで「京都D-School」の基調講演でムラタチアキ氏によりデザインの講義が行われ、京都や日本を代表する大企業の新規事業部、中小企業、ベンチャー、起業家が集まった。これからのビジネスにおけるデザインの位置づけや可能性について多くの具体例・実践例・導入例に基づく講義を聴講した。

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(撮影:筆者/資料©2013 hars inc. All rights reserved)

講義は次のような構成だ。
1. 変わりゆくデザインの定義について
2. デザインプロセスをビジネスに取り入れると
3. これからのデザイナーに求められる能力について
4. デザインを取り入れた教育の在り方について
5. デザインマインドによって日本が国際競争力を発揮するためには

1.変わりゆくデザイン:狭義から広義へ

Apple、Samsung、世界で注目されている大企業の共通点は何か?それはデザインソリューション企業、デザインをストラテジーの中に取り入れていることであるという。

では、デザインとは何か?
狭義のデザインとは、日本語訳をされた意匠、設計、図案、形、色という捉え方がされている。

広義のデザインを考えるため、ラテン語designare(デジナーレ)を紐解くと、“計画を記号に表す”という意味になる。記号とはアイコンだ。アイコンとは、それを見ただけで何かが分かるほどシンプルに分かりやすく表現されたものである。

つまり、デザインとは「モヤモヤしているプランニングを分かりやすく伝えること」だという。

ゆえにビジネスモデルキャンバスを使ってビジネスモデルを考えることや、ビジネスのスキームを組み立てることも、デザインをしていることだという。そしてビジネスの現場でも、徐々に広義の意味のデザインが変わってきているという。例えば、街を資産化すること、教育の場を変えることなどもデザインであり、デザイナーの仕事だと言える。

では、デザイナーと一般人の違いは何だろうか?
ムラタチアキ氏曰く、アイデアを可視化できるのがデザイナーであり、アイデアを可視化できないのが一般人であるという。

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(撮影:筆者/資料©2013 hars inc. All rights reserved)

広義のデザインが広まるにつれ、近年デザイナーに求められる能力も変化してきた。本当のデザイナーとは、プランニングできるかどうかであり、プロデュース能力を備えて無くてはならない。これが本来のデザイナーの姿であるとした。

本来のデザイナーとは、例えば下記のような能力を備えた人材である。
・ビジネススキームを作ることができる。
・機会費用を見つけ出し、削減できる。
・自分の代わりが出来る人をうまく使う。

2.デザインスキームを取り入れた開発の7つのプロセス

デザインのスキームを使うことが出来れば、商品の開発プロセスが変わる。
デザインスキームとは下記のような流れであるとした。

俯瞰⇒観察と発見⇒問題の解決⇒可視化⇒具現化⇒告知化⇒ベクトル化

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(©2013 hars inc. All rights reserved)

1. 俯瞰

エアコンの室外機を考えると、普通のメーカーは、他社より安く静かで省エネで性能が良く環境にマッチするデザインであれば十分となる。
それをもう少し詳しく考えて、社会的な見知をいれる。「皆がクーラーを使うと都市排熱が多くなりヒートアイランド現象を生む」とすると「排熱をうまく使うことはできないか?」と考える。このような開発をすると、室外機の値段は上がり、研究開発費も必要となるが、もしこれが成功したらどうなるか?ということを考える必要があるという。

デザイナーが社会的問題を無視することなく、デザインに取り入れる。また、そういったデザイナーを採用した企業は、単なる競争力の向上だけではなく、企業イメージも向上していくのだ。

このようにジャンルを超えた可能性を見出すことを「俯瞰」という。

2. 発見

俯瞰によって、ステークホルダーが見えてくると、次に「発見」が見えてくる。発見する1つのツールが「行為のデザイン」といい、氏がリサーチの方法として開発したものだ。「ユーザーがどんな目的のために行動するのか?」を考えることで、ユーザーの行為(利用シーン)から、問題や可能性を見つけ出す。

3.問題の解決

問題解決の時に、色々な選択肢が見えてくるバックキャスティングというフィルターを通すことでベストな選択ができるはずだとした。バックキャスティングとは、来年の商品を開発するときに10年、20年先を見て今どうするかを考える。車の開発などでも採用されている手法である。この先をみて、デファクトスタンダードを見ていくことが重要であるとした。

4. 可視化

頭の中にあるモヤモヤをイメージに可視化する。問題を整理して正しい引き算をする。全てのユーザーの声を取り入れると、とんでもないモノが出来てしまう。とんでもない物がそのまま流通してしまうのが日本のマーケットであるとの厳しい指摘もなされた。

ビジネスの先を見据えた上で、正しい引き算をして「これはいらない」と言える勇気があるかどうかである。
それによって、整理された美しい記号(製品やサービス)を作ることができる。

5.具現化

可視化されたモノ(スケッチ、ムービー、モック)を具現化するための様々なアプローチを行う。オーケストラで言うところの指揮者のように全てのエレメントをコーディネートしていくのがデザイナーである。

6. 告知化

具現化された商品を実際に告知化する時に、自身が開発したヘキサゴングラフを使うとした。経済産業省の感性価値創造というプログラムで採用されたものである。感性価値をわかりやすく分析できるように6つの要素(背景感性価値、思想感性価値、感覚感性価値、啓発感性価値、想像感性価値、技術感性価値)に分類したものである。その中の1つ、背景感性価値が紹介された。背景感性価値とはモノの背景に隠れた魅力を語ることである。例えば、作り手の魅力や商品の物語を語ることである。

このように6つの感性価値で訴求の強いポイントを、更に強く告知化する方法を考えるとした。

(参考リンク:経済産業省/感性価値について)
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/kansei.htm

7.ベクトル化

サスティナブルなマーケットを作ることをベクトル化という。例えばラーメン屋が国道沿いに並ぶことで、その地域がラーメンをコアにした食文化の形成に繫がることである。このように同業他社のものやライバル商品を排除するのではなく、協業することを提案することで、新たな価値の創出に繫がるとした。
商品の場合であれば、棚(コーナー)を作ることである。これがベクトル化の基本原理である。

3.これからのデザイナーに求められる力

デザイナーは、センス、デザイン、スキルに加えて、プレゼンテーション能力やコンサルテーションのスキルが非常に強く求められている。例えば下記の能力が重視されてきている。
・先見性のある目
・分野を超えたトータルな見識が必要
・自分やその会社に持っていない能力を調達してくる力=プロデュース能力

ビジネスモデルを考えるデザイナーが気を付けるべきポイントとは?

デザイナーの職域はモノ作り一辺倒から、コトづくりに変わってきている。またデザイナーの社会的責任も変化している。今までは「企業にどれだけお金を落とすことができるか」であったものが、これからは「どれだけ社会的責任を負える企業に変化させることができるか?」を考えることである。行政の場合であれば、1回きりのイベントではなく継続性を考えたデザインをすることだという。

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(撮影:筆者/資料©2013 hars inc. All rights reserved)

4.初等教育にデザインを!すべての科目を横断的につなぐ「でざいん」

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(撮影:筆者/資料©2013 hars inc. All rights reserved)

これからの日本が世界市場で競争力を持ち、イニシアチブを取っていくためには、社会的な問題を解決する人材が必要となると指摘している。そのためには、社会的な問題に気づく子供達を育てる教育が必要とした。ムラタチアキ氏の指摘によると、現在の初等教育のあり方が、各科目(国語、算数、理科など)に表されるスキルにフォーカスしていることに問題があるという仮説を示した。「スキルは、目的のために活かされるべきである。スキルの中核にはWillがあるのではないか?」として、Willを育てるための授業「でざいん」を提言し、既に一部の教育の現場で実践している。

「でざいん」の授業は、子供達を対象に社会的な問題を解決するワークショップを行っている。ワークショップのプロセスは、「観察⇒問題発見⇒問題解決⇒プロセスのデザイン⇒実行⇒ドキュメンテーション」という流れになる。

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(撮影:筆者/資料©2013 hars inc. All rights reserved)

例として、ある子供の問題解決プロセスが紹介された。
①観察:家の犬が吼える>隣の人が怒る
②問題発見:>怒るのが嫌だ。迷惑がかかる。
③問題解決、プロセスのデザイン:犬の口にガムテープを貼る>死んじゃうよ>死なないように考えよう>家の壁に大きな穴>犬が覗けるように>…>何度も繰り返す
④実行・ドキュメンテーション:>犬を家に入れる

上記の例のように、家の壁に大きな穴を開けるといった実行が難しい場合もあるが、このようなプロセスを繰り返すことによって子供達がプレゼンに慣れてくる。自分の考えを人に説明することが上手くなるという。また「問題を解決していく」ことが普通になってくる。こういった子供達が成長した時点で、スキルを習得するためのダブルメジャーの教育を開始したら、確実にデザイン・プロデュース能力が上がってくるという。

5.デザインマインドを持つ人材の創出について

デザインマインを持つ人材の創出について
デザイン・プロデュース能力の高い人材が各地に育つことによって、「地域コアコンピタンスとデザインメソッド」のかけ算をして市町村単位で小さなコミュニティ同士が交流する仕組みを作れるのではないかとした。また、今の大人達がそのような人材を育てることで、日本が変わってくるとした。

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(©2013 hars inc. All rights reserved)

日本から世界へ発信する
オタク、カラオケなど世界に広がっている日本の文化は、日本が発信したのではなく海外が注目したものである。このように日本は発信力が乏しいことが指摘された。今後、日本が世界に発信していくべきこととして、「日本にしか、できないこと」を下記のように提言した。

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(©2013 hars inc. All rights reserved)

世界から日本へ集客する
発信と同様に日本は集客ができていないと鋭い指摘がなされた。集客方法の例として、世界中で利用されているハイテクな素材は日本が創り、輸出していること挙げ、「Future Material Expo」(新素材の博覧会)を開催して、素材立国として世界のイニシアチブを取ることなどを提言した。

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(©2013 hars inc. All rights reserved)

筆者感想:
講演後のムラタ氏をつかまえて、「なぜジャンルを超えてデザインソリューションを作り出し続けることができるのか?」と尋ねてみた。答えは意外なもので「実はね。見たら一瞬で分かるんですよ!」と。それじゃあ講義の意味がないじゃないか!と思ったのだが、ちゃんと補足してくれた。『デザインは特別じゃないです。誰でもやっているし、誰でもできることです。「例えば、あなたの専門分野のことなら僕より詳しいでしょ?」、僕はそういう人と手を組んで、社会性のある視点で、物事を見る。だから分かるんです。後はやるかやらないかだけですよ。』という。
筆者がムラタ氏の言葉を拡大解釈すると、私たち1人1人が十人十色のデザイナーなのだ。そして本講座で学んだデザインプロセスを少しでも実践していくことで、目の前にある問題や可能性に気づく力を養い、そして解決へと行動する力を養うことができるはずだ。デザインマインドを持った個人の生き方や、デザインプロセスを取り入れた企業の文化を、日本から世界へ発信することで、社会をより良くする動きへと繋がると信じている。