ビジネス総合力養成講座「京都D-School」オープニングセミナー
[レポート著/亀田真司]

2013年5月25日、公益財団法人 京都高度技術研究所アステム(ASTEM)が主催するビジネス総合力養成講座「京都 D-School」のオープニングセミナーが開催され、京都を代表する大企業から中小企業、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタルなど様々な顔ぶれが集まった。

午前は同志社大学教授 山口栄一氏によるイノベーションの講義、午後は、京都D-Schoolが年間通して実践するビジネスモデルを紐解くツール「ビジネスモデルキャンバス」(出典:ビジネスモデルジェネレーション/翔泳社)のワークショップを翻訳者である小山龍介氏の指導のもと参加者全員で実践した。オープニングセミナーはYouTube動画で見ることができる。(http://www.youtube.com/user/KyotoDSchool/)。ここでは、講演内容とワークショップのサマリーをレポートするので動画と併せてご覧いただきたい。

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(ビジネス総合力養成講座「京都D-School」オープニングの様子)



第1部「回遊と創発:イノベーションの2つの鍵」

午前は、同志社大学 教授の山口栄一氏により、イノベーションのための2つの鍵「回遊」と「創発」を理解するための講義である。

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(山口栄一氏)

講義は、イノベーションとは何かを理解するところから始まった。
イノベーションとは、経済価値及び社会価値をもたらすあらゆる改革行為であり、技術革新とは限らない。
シュンペーターのイノベーションの定義は2つの軸でとらえることができる。

図の(1)技術イノベーションと(2)経営イノベーション(ビジネスモデル)である。さらに、これだけでは説明がつかない変革がある。それが第3軸、(3)感性イノベーションといい、クオリティオブライフやブランド、信頼感だという。

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(図:イノベーションとは何か/山口栄一)

ブレークスルーの3つの型

イノベーションには、必ず何らかのブレークスルーが存在する。
ブレークスルーを起こす鍵が、創発と回遊である。

  • 創発とはなにか?回遊とは何か?
  • そして、どのようにブレークスルーが起きるのか?

イノベーションのプロセスを3次元空間に図解化した「イノベーション・ダイアグラム」を用いながら理解する。
既存技術(A)を起点としたイノベーションのプロセスには、3つのタイプのブレークスルーがあるという。

  • タイプ1:創発によるブレークスルー(A→S→P→A*)
  • タイプ2:回遊によるブレークスルー(A→B→B’)
  • タイプ3:回遊的創発によるブレークスルー(A→S→P→P2→A*2)

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(図:イノベーションダイアグラム/山口栄一氏)

ちなみに、既存技術の延長上で技術開発・企画開発することは、パラダイム持続型イノベーションと言われ、図のA→A’という演繹的なプロセスである。これはブレークスルータイプ0としている。私たちがやっている改善行為のほとんどがタイプ0であり、必ず行き詰まると指摘している。

創発 ー ブレークスルータイプ1

創発とは、科学・研究という営みによる「知の創造」である。

事例:青色発光ダイオード
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(図:パラダイム破壊型とパラダイム持続型/山口栄一)

タイプ0(A→A’)で行き詰まったら、「本質」に向かって下りる=「帰納」(Induction)。
下りると決めたら、「土壌の下」まで徹底して下りる。土壌の下まで下りることではじめて、「創発」(Abduction)することができ、新しいパラダイムを見つけられる。そのためには、知を創発する研究者・科学者と知を具現化する技術者・開発社の「共鳴場」を形成することが重要になる。

回遊 ー ブレークスルータイプ2

Transilienceという概念を山口氏が「回遊」と翻訳した。回遊とは、「意味の洞察・見極めを行い、全く違う評価軸を取ること」である。

事例:日立とARM社
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(図:「価値の創造」のサブ空間/山口栄一氏 )

未来にいたる価値の創造は、現状の延長を「演えき」(Deduction)するだけでは、見つからない。つねに、アイステシス(感性)軸の存在を意識して、「回遊」(Transilience)する。そのためには、「未来」の構想と「知の越境」をいつも意識することが重要である。

回遊的創発 ー ブレークスルータイプ3

回遊的創発とは、回遊と創発を同時に起こしていくこと。知の土壌で、回遊的思考によって分野の壁を越え、創発を行うことだという。

事例:ニューコメンの蒸気機関、iPS細胞
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(図:イノベーションダイヤグラム・ブレークスルータイプ3/山口栄一氏)

土壌の下(知の土壌)に下りたら、創発(Abduction)の最中に分野の壁を越えて越境すること、すなわち「回遊的創発」(Transilient Abduction)を心がける。「10年後の未来」は、「現在の土壌の下」からしか生まれない。

研究という経験が根底にあることが重要

講義の最後に、山口氏は、ブレークスルーを起こすための大前提として、何らかの分野を研究するによって「この世にないものをあらしめた」という経験が根底にあることが重要であるという。「これから皆さん方に是非ともやってほしいことは分野の壁を越えるような回遊です。」そして「大企業に勤めていて、どうも違うなと思ったらベンチャーで起業することをオススメします。」という言葉で締めくくられた。


【筆者感想】
山口氏が、繰り返し「人生のゴールが違う」と語っていたことが印象的だった。それは、イノベーションダイヤグラムの縦軸=開発者と、横軸=研究者、それぞれの人生のゴールだ。天命、天職と言っても良いかもしれない。研究者・科学者は知の土壌を掘り進み、1ミクロンでも良いからこの世にまだないものを、誰も見たことの無いものを見たいと願う。技術者・開発者は、知を具現化し、新しい技術・商品を創り出し市場に届けたいと願う。双方が両輪となって尊敬し合える「共鳴場」を作ることで、世界を変えるイノベーションが起こるのだ。京都D-Schoolを含め、各地でもd.school的な流れがあり、コーワキングスペースが立ち上がり、コラボレーションのための空間的場は増えている。そんな今こそ、そこに関わる人間の多様性を認め合えるかどうか重要であり、一人一人の人間性が試されているのかもしれない。